【kuruma】
2023.12.08
映画やドラマでは、クルマのトランクに監禁されるシーンを見かけることがあります。もし現実にそのような事態になったらどうすれば良いのでしょうか。
90年代以降に大きく変わったトランクを開閉する仕組み
悪の手先にクルマのトランクに閉じ込められた主人公が、間一髪で脱出――。刑事ドラマやサスペンス映画などでよく見かけるシーンですが、現実の世界ではそうそう遭遇することはないはずです。
とはいえ、用心に越したことはありません。万が一にでも何かの事件に巻き込まれトランクに監禁されたとしたら、いったいどうすれば脱出できるのでしょうか。
そのためには「まずトランクの構造を知ることが大事」と、整備担当として首都圏の自動車販売店に勤務するT氏は話します。
「トランクはボディ側にあるU字型の金具『ストライカー』に、トランクリッド側にあるC字型の金具『ラッチ』を引っかけることで、閉まっている状態をキープするようになっています。
ラッチを回転させてストライカーに引っかからない角度にすればトランクが開くというのが基本的な構造です。
ワイヤーでラッチを回転させるタイプのクルマなら、そのワイヤーを見つけて引っ張れば、閉じ込められても内側からトランクを開けることができます」
意外にも簡単に逃げられそうでちょっと安心しましたが、世の中そんなに甘くはなさそうです。
「1990年代に入ってから、トランクロックがワイヤーではなく電磁式のクルマが増えており、現在販売されているクルマのほぼすべてが電磁式なんです。そうなると引っ張るべきワイヤーがありません」(自動車販売店の整備担当 T氏)
つまり、電磁式のトランクのクルマばかりの現代では、トランク内からの脱出は不可能ということなのでしょうか。
「いえ、電磁式といってもラッチを回転させてトランクを開けるという構造は変わりません。電気でアクチュエーターを動かしてラッチを回しているだけですので、これを任意で動かすことができれば不可能ではありません」(自動車販売店の整備担当 T氏)
ただ、このラッチが引っかかっているストライカーのほとんどが内張りのなかにあるため、暗いトランクのなかで内張りを剥がして探し当て、工具もなしに細かい作業をするのは非常に難しく、現実的ではないのだとか。
トラブルなどの際に室内から開けることも想定されているハッチバック車は、ラッチ周辺にサービスホール(組み立てや修理・整備などで用いられる穴)が用意されアクセスしやすいのですが、セダンではそもそも内側から開けること自体が考えられていないということなのかもしれません。
「実はそうとも言い切れなくて、電磁式トランクはバッテリーがあがると操作できなくなるので、そうしたときのためにオープナーが用意されているクルマもあるんです。
もっとも、それがトランク内にあるとは限らず、室内側やリアシートの後ろにあるリアトレイなどにレバーがあるケースもあります。
ですので、トランクに閉じ込められたときに助かるかどうかは車種次第といったところでしょうか」(自動車販売店の整備担当 T氏)
1980年代の古いワイヤー式のクルマなら簡単なのですが、そういったネオクラシックのクルマを犯行に使うにはいささか目立ちすぎます。
また、場当たり的な犯罪というより計画的な可能性が高い誘拐などにおいて、犯人が親切にもトランク内にオープナーが付いているクルマを選ぶとも思えません。
そもそも手足を自由にしておいてくれるのかなど総合的に勘案すると、トランクから無事に脱出するのは非常に厳しいといわざるを得ません。
※ ※ ※
日本より犯罪の多いアメリカでは、2002年以降トランクを内側から開けられる「エマージェンシー・トランク・リリース・レバー」の装着が法律で義務付けられています。
治安が良いとされる日本ですが、犯罪だけでなく、誤ってトランクに閉じ込められてしまうことがあるかもしれません。
万が一に備えて、内側からトランクが開けられるように法整備されることを期待したいところです。