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 法制度のデフォルト(初期設定)が、紙や対面からデジタルに転換する――。2022年はそんな節目の年になりそうだ。政府は2021年12月24日、政府全体のデジタル政策の道筋を示した「デジタル社会の実現に向けた重点計画(以下、重点計画)」を閣議決定した。デジタル庁が司令塔となり各省庁と連携して、策定した工程表に沿ってデジタル社会に合う形に法制度からシステム、データ基盤まで再構築する。

 重点計画には、デジタルを前提とする社会の共通の指針となる「デジタル原則」が盛り込まれた。今後政府はこの原則に沿って法制度の整備や政策立案を進めることとなる。

 このデジタル原則を策定したのが、2021年11月に岸田文雄首相肝煎りで発足した政府の「デジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)」である。デジタルの視点から国や地方自治体の制度を含めた規制改革と行政改革を一括して進める。

 デジタル臨調の事務局長を務める小林史明デジタル副大臣は、2021年1月後半から河野太郎前規制改革担当相の内閣府大臣補佐官(当時)として、「ワクチン接種記録システム(VRS)」の開発・運用を主導した。デジタル庁での仕事はVRSの経験が生きていると話す。日経クロステックは2021年12月24日、小林デジタル副大臣にインタビューして具体的な構造改革の進め方などを聞いた。(聞き手は長倉 克枝=日経クロステック/日経コンピュータ)

小林 史明(こばやし・ふみあき)氏 衆院議員 デジタル副大臣兼内閣府副大臣
小林 史明(こばやし・ふみあき)氏 衆院議員 デジタル副大臣兼内閣府副大臣
1983年生まれ。上智大学理工学部化学科卒。NTTドコモ勤務を経て2012年衆院選初当選。政府のデジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)事務局長を務める。(写真:的野 弘路)
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各省庁や事業者が内発的に、自律的に規制を見直す流れをつくる

デジタル臨調は各省庁の法令や通知、通達など約4万件を総点検しデジタル原則に沿う形に見直すため、2022年春に規制見直しプランを策定します。見直しの実現に向けては各省庁との連携が不可欠ですが、どのように進めますか。

 法制度をデジタル原則に沿うように変えるのが政府方針ですが、方針を示しただけで各省庁が動くものでもないと考えています。2つポイントがあります。1つ目は具体的に見直しを進めていくに当たり、事務局側で各省庁に対して「手順書」のようなものをつくって渡すことです。

具体的には、(既存法令見直しの)整理の仕方と整理の類型をつくります。例えば「目視」をしなければならないといった規制があるとします。「目視」には、「目で見る」「判断する」の2つの要素があります。両方とも人がやる、見る部分を遠隔などでデジタル化する、判断も含めてデジタル化する、とデジタル化は3段階程度に分けられます。こうして類型化した上で、「この法律のこの条項ではいま2段階目なので、3段階目にしましょう」という見直しの仕方を提示します。

また、法制度見直しにあたって技術的な検証が必要なものは、「この期間で、この調査をしてはどうか」といった方法の提案を事務局からして、各省庁が迷わないようにしていきます。

2つ目のポイントは、各省庁または官僚個人が内発的なエネルギーで自律的に改革に取り組むということです。自分たちの省庁の法令などをなるべく自分たちで見直す。自分たちの法令が時代に合わないと感じている官僚の皆さんが、この機会に法令を一気に見直せるというのが今回の取り組みです。

各省庁にとって動機付けになるのは、(2022年春にまとめる規制見直しプランに盛り込む)一括法改正に各省庁の法令見直しを乗せることです。(規制のデジタル原則への適合という)政府方針があるので、各省庁でいずれやらないといけない見直しがあります。これらを各省庁が個別に国会対応などを経てやるよりも、一括法改正に乗せたほうが各省庁にとって楽になるというのが一番の動機付けです。

ただ、自発的に取り組むには動機付けも必要です。2021年12月22日のデジタル臨調では岸田首相の「霞が関こそデジタルトランスフォーメーション(DX)を進め、新しい時代・社会に見合った姿に率先して変革していく」という指示がありました。業務改革やDXを手掛けたほうが評価されるような動きをつくっていきます。人事評価と、省庁としての評価を組み合わせることを考えています。

デジタルに合わない規制の見直しは、事業者からも要望が挙がっていると思いますが、事業者のニーズをどのように規制見直しに反映させますか。

 事業者の皆さんが内発的に、自律的に規制を見直す流れをつくることが重要です。主要な経済団体にはアンケート配布を始めました。「どういう規制がどうなってほしいか」「どの法律の何条何項を変えてほしいか」といった具体的な提案をWebフォームに入力してもらいます。一部は今日(2021年12月24日)から意見募集を始めましたが、事務局の体制が整ってきたらより広く募ります。

経済団体から要望があれば、我々から規制見直しの趣旨を説明します。日本経済団体連合会(経団連)には今日オンライン会議で説明しました。また、事務局には経団連、日本IT団体連盟、新経済連盟からも職員に出向してもらっていますが、事業者と一緒に進めていきます。

事業者からの要望の中には、通知や通達といった、(法令データベースで)検索しにくい規制が出てくると期待しています。また独立行政法人のガイドラインなどで見直してほしいものも出してくださいとお願いしています。事業者から出てきた規制見直しも、事務局で洗い出したリストに追加していきます。

今後新設・改正される法令や通知、通達などがデジタル原則に適合しているかどうかをチェックする「デジタル法制局」の設置を今後検討するということですが、機能や設置場所などのイメージを教えてください。役割としてはデジタル臨調がバッチ処理(=既存の法律の一括審査・改正)、デジタル法制局がオンライン処理(=新規法案・改正法の逐次審査)というものでしょうか。

 そうですね。デジタル臨調でバッチ処理をして、デジタル法制局では(法規制のデジタル原則への適合チェックを)自動化した処理をするという整理をしています。今は自動処理機能がないですが、デジタル臨調でわかってきたノウハウを基に、(法規制のデジタル原則への適合チェックを)自動処理できるようにして、今後デジタル法制局で担ってもらうイメージです。

デジタル法制局の法的位置づけや組織としての設置場所は各国の組織を研究しながら検討していきます。ただ、法規制のデジタル原則への適合チェックは政策判断なので、今ある内閣法制局の機能とはかぶりません。

法制度と情報システムを含めた全体最適は、現状はデジタル庁で見ています。今はデジタル庁にデジタル臨調事務局があるので、「この制度を変えたらこのシステムを導入する」といった検討がデジタル庁でできるので良い連携になっています。例えば「対面」「書面」なしで行政手続きができる法制度になったら、情報システムでどう実現するか、デジタル庁が各省庁と連携して検討します。一方で法制度を見るのがデジタル法制局の役割ですが、どの組織に置くのがいいかは今後の課題です。

政府のデジタル臨調、デジタル田園都市国家構想実現会議、デジタル社会推進会議のほか、デジタル庁のデジタル社会構想会議もあります。これらの位置づけの違いを教えてください。

 政府全体のデジタル政策の方針である重点計画を決めるのが政府のデジタル社会推進会議です。重点計画について、有識者がより深く議論するため、デジタル庁設置に伴い新たにつくったのが、デジタル社会構想会議です。

重点計画の実現のために、法規制の洗い出しと見直しを進めるのがデジタル臨調です。これに対して、実現に向けた予算と具体的なメニューをつくるのがデジタル田園都市国家構想実現会議です。「デジタル田園都市国家構想推進交付金」などでは、目に見える形で地方にデジタルを実装していきます。