政府が異次元の少子化対策に取り組むなか、2019年の合計特殊出生率が2.95を記録した岡山県奈義町。町が子育て支援を重視する理由について伺いました。(全2回中の2回)

「合併しない」ことからスタート

──「奇跡のまち」と報道されることも増えたと思いますが、少子化対策への取り組みは20年前以上から取り組まれてきたそうですね。

情報企画課 森安栄次さん:いちばんの転機は、いわゆる平成の大合併の際、平成14年に合併しないことを選択してからです。住民投票で、投票された方の7割以上の意見で決定しました。そこから改めて町を存続させることについて真剣に考えてきたのですが、町が残るというのは住む人がいるということ。財政の立て直しとあわせて、子育て支援を拡張させてきました。

奈義町の子育て支援
奈義町が掲げる子育て支援の一部。給食費の半額補助や、教材費の無償化など町独自の支援策も(提供:奈義町)

20年かけて取り組んできたことなのですが、時代によって若い世代の方の価値観や子育て観も変わってくるので、それに応じて柔軟にこちらも支援を拡大していくのが大切だと思っています。国には社会全体を変えるという大きな役割がありますが、自治体の役割として自分たちの町をどう守って次に繋いでいくかを第一に考えています。

── さまざまな子育て支援が行われていますが、支援策はどのようにして決めているのでしょう。

森安さん:住民の声を聞くことを第一にしているのですが、町の職員が町の人が集まる場所に足を運んで、コミュニケーションを取る機会をつくっています。たとえば、PTAの会合があればそこに行く、町長がなぎチャイルドホーム(一時保育や親子向けイベントを行う施設)などに出向く。そこでざっくばらんに意見を伺っていますね。

奈義町
多世代交流広場ナギテラス。観光案内所やバス待合所などもある施設で住民が憩える場所

── 住民を集めるのではなく、集まっている場所に行くんですね。

森安さん:役所は用事があるときに行くもので、どうしても固い雰囲気がありますので、みなさんのところに伺うというのを基本としています。

役所のロの字のテーブルを囲んでする会議では出てこなくても、座談会のような感じで雑談から出る意見は本当に必要な支援であることが多いです。毎年、施策全体に関する住民への満足度調査もしていますが、そういったデータを取っていくものとあわせて、日々の会話から意見を伺うほうが本音も出やすいと思いますし、何より問題解決への近道だと思っています。

子育て支援が高齢者福祉につながる

── 奈義町がここまで子育て支援に力を入れる理由はなんでしょう。

森安さん:私たちがしている子育て支援は、実は高齢者にとっての町づくりでもあるんです。都市部とは考え方が違うと思いますが、地方では、少子化対策は最大の高齢者福祉につながると考えています。

うちの町は正直、不便です。全国展開しているような大きなショッピングセンターもありませんし、高校もありません。JRも通っていません。

人口6000人ほどの町で、子どもがいる家庭の半数以上が3人きょうだいなのですが、小さい子どもはすぐ風邪も引きますので、町に2か所ある病院にかかります。医療費は高校生まで無料なので、近くのかかりつけ医に診てもらって病院の存続もできます。

奈義町の子どもたち
笑顔溢れる奈義町の子どもたち。3きょうだいの家庭が半数だという

高齢者だけの家庭では食材を消費する量も少ないと思いますが、家族がたくさんいると日々の買い物で町のスーパーを使うので、町の店も維持されています。高校生はバスで40分くらいかけて町外の高校に通うのですが、高校生が日々利用することで町の公共交通が維持されています。

もし若い世代がいなくなったら、病院や店、公共交通の維持ができなくなってしまって、高齢者が町に住めなくなってしまうんです。町に愛着を持って町のために頑張ってくださっていたご高齢の方が望むのは、やっぱり町で最期を迎えることです。

奈義町
3世代交流会の様子。世代を超えて将棋や囲碁に取り組む姿が新鮮!

── 子育て支援が高齢者支援であると。

森安さん:私たちが一番恐れているのは、その町で住めなくなった高齢者が都市部に行ってしまう、高齢者の流出です。若い世代が流出するのは町に魅力や雇用がないからで、実は我々の努力でなんとかできることもあるのですが、高齢者が出ていってしまうのは町に生活基盤がないから。

これは町を存続するうえで一番の問題で、絶対に避けなければならないと思っています。都市部も、急に地方から高齢者が流入してきたら受け入れるのが大変ですよね。

高齢者の方が、老後を恐れずに安心して老後を楽しめる町というのは、それを見た次世代やその子どもたちも安心して生活できる町になる。そういうふうに繋がっていくと思っています。

取材・文/内橋明日香 写真提供/奈義町